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大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)5198号 判決 1977年11月29日

原告

村上庄市郎

被告

山崎浩樹

主文

被告は原告に対し、金四九万九〇七八円およびこれに対する昭和五二年一〇月一二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、他の一を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は原告に対し、金二六四万六九三三円およびこれに対する弁論終結の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和五〇年一一月二〇日午後一〇時二〇分頃

2  場所 大阪府枚方市出口町一丁目一番一号先路上(国道一七〇号線)

3  加害車 普通乗用自動車(大阪五五み五六二六号)

右運転者 被告

4  被害者 原告

5  態様 原告は前記国道を横断するため歩行中、南から北へ進行中の加害車両を発見したので、これをやり過ごそうと道路中央線の東側で停立していたところ、加害車両が中央線を越えて走行したため原告に衝突して原告を跳ねとばした。

二  責任原因

運行供用者責任(自動車損害賠償保障法三条)

被告は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた(当日車を購入したばかりで運転して自宅に向う途中、本件事故が発生した)。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 傷害

頭部打撲挫創、頭部外傷第Ⅲ型、右側頭骨々折、脳震盪、左耳出血、左顔面・左膝・左胸部挫創、左肘挫傷、左右手背挫創、左大肥骨々折

(二) 治療経過

昭和五〇年一一月二〇日から同年一二月二〇日まで吉田外科病院に入院

翌一二月二一日より同病院にて通院治療中であるが、昭和五二年春には抜釘手術のため再入院の予定である。

2  休業損害

原告は本件事故当時近畿紙料株式会社に勤務し、一か月平均一二万五〇〇円の給与(賞与を含まない)を得ていたが、昭和五〇年一一月二〇日から昭和五一年六月九日までの間入通院のため休業を余儀なくされ、さらに昭和五二年春頃には抜釘手術のため約一週間入院し、その後約三週間余通院を要する予定であり、結局一月間の休業が見込まれるので、本件事故により一〇四万四三三三円の休業損害を被つた。

また右事故による休業のため、原告は昭和五一年夏季分の賞与三〇万円の支給を受けられなかつた。

3  後遺障害による逸失利益

後遺障害としては未だ確定的ではないが、現在顔・足に傷があり、左足が曲らず、脳波にも異常がみられることからも、少くとも自賠責後遺障害等級第一四級程度の障害が残存するものと考えられるので、これによる逸失利益は一四万四六〇〇円となる。

4  入院雑費

一日五〇〇円の割合による四二日分として二万一〇〇〇円

5  慰藉料

原告は重量物の持ち運びをする作業が事故後困難となつたため、勤務先より退職を勧告されているという状況にあり、後遺障害の内容、程度をも考慮すると、原告の精神的苦痛を慰藉するには少くとも金一三六万円を相当とする。

6  弁護士費用 五〇万円(着手金および成功報酬)

四  損害の填補

原告は被告から得べかりし利益の喪失に対する補償として、金七二万三〇〇〇円の支払を受けた。

五  結論

よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金については民法所定の年五分の割合による)を求める。

第三請求原因に対する答弁

一の1ないし4は認め、5については原告が南から北に進行していた被告車と衝突し、跳ねとばされたことは認めるがその余は争う。

二は被告が事故車両の所有者であること、被告が事故当日車両(但し中古車)を購入したことは認める。

三については、原告が本件事故で負傷し、原告主張の期間吉田外科病院に入院したことは認めるが、その余の事実は傷害の内容をも含めてすべて不知。

四の弁済の事実は認める。

第四被告の主張

本件事故発生直前、原告は中央線付近に佇立して車両の通過を待つていたが、突如被告車両の前に飛びだしたため衝突したもので、当時原告は近所の居酒屋で飲酒し甚しい酩酊状態にあつた。このように本件事故の発生は専ら原告の過失によるものであるため、被告は昭和五一年二月二六日大阪地方検察庁で不起訴処分となつた。

なお被告は原告に対して、昭和五〇年一二月分から昭和五一年五月分までの給与および社会保険料として、合計七九万一〇八五円を支払つた。

証拠〔略〕

理由

第一事故の発生

請求原因一の1ないし4の事実は、当事者間に争いがなく、同5の事故の態様については後記第二で認定するとおりである。

第二責任原因

運行供用者責任

請求原因二の1の事実は、当事者間に争いがない。従つて、被告は自動車損害賠償保障法三条により、後記免責の抗弁が認められない限り、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

そこで免責の抗弁について接するに、成立に争いのない乙第一号証と原告、被告各本人尋問の結果によると、本件衝突事故の態様はつぎのとおりであつたことが認められる。

事故発生現場は、被告が自動車を時速四〇キロメートルくらいで運転北進していた南北道路(アスフアルト舗装され、平たんな歩車道の区別のない幅員九・八メートルの国道一七〇号線)と同道路から東にT字型に伊加賀町方面へ通ずる道路とが交差する右国道上であつて、国道上にあつては前方の見とおしはよいが、事故発生場所の周辺は暗く、当時路面は乾燥しており車両走行速度は時速四〇キロメートルに制限されていた。

被告運転車の減光時における前方照射距離は五〇メートル、減光時の障害物識別距離は三〇メートルである。

しかるに、被告が右国道の北行、南行車線を区分する中央線寄りにその北行車線内を北進していて中央線上に立つている原告の姿を発見したのは自車前方一三・三メートル地点であつたこと、そこで危険を感じ減速措置をとつたと同時くらいに中央線上の原告がいきなり自車進路前方に入り込んできたので急ブレーキをかけ、ハンドルも左に切つて衝突を避けようとしたが及ばず、自車右前部角あたりを衝突させ同人をボンネツト上にすくい上げた後路上に落下させて、原告に傷害を負わせたこと。

一方原告は東方から西進してきて右国道を東から西に横断したのち同所国道西沿いにある社宅(同人ら夫婦の勤務先である近畿紙料の社宅で会社の一廓にある)に帰るため、国道を横断しはじめたが、北行車線を北進してくる自動車のあることには気づいていたので、中央線東側あたりまで進んで来て、そこで一旦立停つていたが、当時酒に酔つていたせいもあつて、被告車が接近して来ていたのに不用意に中央線を越えて北行車線内に約八〇センチメートル程入り込んだため、被告車において避け切れず衝突したこと。

右認定に反する原告本人尋問の結果中の自分は中央線より東側(南行車線で幅員五メートル)に立つていて被告車に衝突されたものである旨の供述部分は前掲乙第一号証に照してにわかに信用できないし、他に右認定に反する証拠はない。

ところで、右認定事実によれば、被告が原告を発見した後の措置については兎に角、中央線あたりに立つていた原告の姿に一三・三メートルに接近するまで気がつかなかつた点については、同人において自動車運転者として前方注視義務の尽し方が充分でなかつたためその発見が遅れたとの批難は免れず、この点もつと手前で発見しておれば、それに対応して減速、転把、蓄音器を吹鳴して注意を喚起する等の衝突回避措置をとり得て事故を避けられたものと考えられる。従つて、本件にあつては未だ被告において自車(加害車両)の運転につき過失がなかつたものと認めることはできないから、既にこの点で被告の免責の抗弁は理由がない。

第三損害

1  受傷、治療経過等

原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認められる甲第二号証ならびに弁論の全趣旨によるとつぎの事実が認められる。

原告は本件事故により、頭部打撲挫創、頭部外傷、右側頭骨々折、脳震盪、右耳出血、左顔面挫創、左胸部・左肘・左膝挫傷、左大腿骨々折、左右手背挫創の傷害を負い、受傷後間もなく枚方市内の吉田外科病院にて頭部七針、顔面二針縫合、左大腿骨々折には副木固定の応急処置を受けたうえ、意識混濁がみられ、頭部外傷による頭蓋内出血があつたので同日大阪大学医学部付属病院特殊救急部へ搬送されたが、途中意識回復、頭骨々折による症状は著変なく、右耳も出血、左大腿骨折に対し鋼線牽引術を施された状態で右吉田外科に入院し、同年一二月二〇日退院、この間牽引監視を続け一一月二七日には左大腿骨々折観血的整腹術を受け、ギブス固定により安静を続けた。入院中各部位とも経過は順調で軽快に向い、退院後は自宅安静および通院(昭和五一年九月一六日までに実通院三一日)によりレントゲン診断と機能回復訓練を続け、右九月一六日現在骨癒合完成にて六か月位後に抜釘手術を受ける予定であつたが、入通院のため都合一か月くらい仕事を休まなければならないため、都合がつきにくく昭和五二年末頃に受ける心算であること、原告の最近の症状は原告本人尋問を実施した昭和五二年七月現在、なお通院治療を受けておる様子であるが、正座ができず、あぐらもかけない、左大腿部、腰、右眉上・左眉下に傷痕があり、昭和五二年初め頃には脳波にもまだ異常がみられたこと。また仕事をする上では特に足に力が入らないため従来一人でしていた製紙原料(重量三〇~八〇キロのもの)を持ち運びできなくなり、同一会社で働いている妻に手伝わせてやつと作業を続けている現状であること。

2  入院雑費

原告が三一日入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日七〇〇円の割合による合計二万一七〇〇円の入院雑費を要したことは経験則上これを認めることができる。

3  休業損害

原告本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第三、第四号証によれば、原告は事故当時近畿紙料株式会社にプレス工として勤務し、賞与を除いて一か月平均一二万五二二〇円の収入(事故前の昭和五〇年八、九、一〇月支給額の平均)を得ていたところ、本件事故のため、昭和五〇年一一月二一日から昭和五一年六月九日まで休業を余儀なくされ、さらに昭和五一年七月支給の夏季賞与三〇万円の支給も受けられなかつたので、結局合計一一三万三六五六円の収入を失つたことが認められる。

算式 <省略>

4  後遺障害による逸失利益

右については、原告においてなお通院のうえ治療を受けていることはさきに認定のとおりであり、現実労働の上では足に力が入らないため重量物を運搬できない外には取り立てて支障を来しておらず、脳波異常の点はその内容が明らかでないし、本人尋問の結果によつても頭痛等のあることも窺われず、給与面にあつても本件事故のため具体的に減収が続いておる等の立証もないので、結局慰藉料の算定にあたり諸般の事情の一として斟酌するに止め、財産的損害としてはこれを認めるに由ないものとする外ない。

5  慰藉料

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、その他諸般の事情を考え合せると、原告の慰藉料額は金一二〇万円とするのが相当であると認められる。

(入院一月、通院九か月の外、将来抜釘手術を受ける際の事情をも考慮に入れ、これらを対象に金一〇〇万円、足に力が入らず作業能率を気にかけ、妻の協力でどうにか稼働しているものの、自分の将来の処遇につき不安をもちつつ日を送つている心労等に対し金二〇万円を算定考慮した)

第四過失相殺

前記第二で認定した本件事故の態様、原告本人尋問の結果により認められる事故当時原告は飲酒して帰宅途上で少なくともほろ酔い気分になる程度に酒に酔つていたこと、原告が横断しようとした場所は国道の向い側近くに原告の住居(社宅)があつたとは言え、信号の設置もなければ横断歩道も設けられていない(その付近にもない)ところであることを考えると、本件事故の発生については、原告にも不用意に横断を開始し、または横断を続けた過失が認められる(中央線上に停立していたこと自体被告車の接近に気づいていた原告にとつては相当とはいえず、むしろ横断を差控えるべきであつた)ところ、前記認定の被告の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の五〇パーセントを減ずるのが相当と認められる。

第五損害の填補

請求原因四の事実は当事者間に争いがなく、さらに成立に争いのない乙第二ないし乙第一〇号証、証人村上月美の証言によると、その外に被告から原告に対し六〇〇円が支払われていることが認められる。

(なお右証拠によれば、本訴請求外の本件事故による損害として、原告が入院中、同人の妻村上月美が仕事を休んで付添看護に当つたので、同人の休業損害相当分として被告から同人に六万七四八五円を支払つておることが認められる。)

よつて原告の前記損害額から右填補分七二万三六〇〇円を差引くと、残損害額は四五万四〇七八円となる。

第六弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は四万五〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

第七結論

よつて被告は、原告に対し、金四九万九〇七八円およびこれに対する本件の口頭弁論終結の翌日であることが記録上明らかな昭和五二年一〇月一二日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

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